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岡山地方裁判所 昭和40年(ワ)476号 判決

原告 秋田物産株式会社

右訴訟代理人弁護士 近成寿之

被告 土佐水産株式会社

右訴訟代理人弁護士 西村寛

主文

被告は原告に対し金一三五万九、一四〇円およびうち金七一万五、〇〇〇円に対する昭和三九年一月一日から、うち金六四万四、一四〇円に対する昭和四〇年九月六日から右完済に至るまで年六分の割合による金員を支払え。

訴訟費用は被告の負担とする。

この判決は原告において金五〇万円の担保を供するときは仮に執行することができる。

事実

〈全部省略〉

理由

一、原告が海産物、食料品等の卸売業を営む会社であり、被告に対し、いずれも代金(運賃負担分を含む)は翌月末日までに送金して支払うという約定で、左記のとおり、水産物加工品を売渡したことは当事者間に争いがない。

(1)、昭和三八年五月三一日

「あら波」、 代金一〇万一、六〇〇円

(2)、同年六月八日

「あら波」、 代金 六万三、六〇〇円

(3)、同年六月一一日

「あら波」、 代金 六万三、六〇〇円

(4)、同年九月二六日

「珍味いか」、代金 三万四、五〇〇円

(5)、同年一〇月二二日

「さゞ波」、 代金 二万六、二五〇円

運賃 一八〇円

(6)、同年一一月八日

「あじ煮干」 代金 三五〇円

運賃 一一〇円

(7)、同年一一月二〇日

「珍味いか」、代金 三万七、五〇〇円

(8)、同年一二月五日

「花万いか」、代金 三万七、五〇〇円

(9)、昭和三九年二月三日

「さゞ波」、 代金 三万五、二五〇円

被告は右代金について、原告が自陳する弁済充当控除分のほか、被告が原告に売渡した左記売掛代金と差引計算がされているので、すでに全額支払ずみであると主張する。

(1)、昭和三八年九月二日

「目近節」、 代金 二万一、六〇〇円

(2)、同日

「むろ節」、 代金 六、〇〇〇円

(3)、同年九月三〇日

「鯖節」、 代金 四、〇〇〇円

〈証拠〉によれば、原告は被告会社との間のみならず被告会社の従業員であった訴外畠山淳美が妻名義で営業する畠山商店からも水産加工品を買入れていたところ、原告会社では右(1)ないし(3)の売買は全て畠山商店からの買入れとして処理され、右代金(但し代金額は三万一、四三八円となっている)は昭和三八年九月六日原告から四国銀行本店の畠山淳美口座に銀行送金されていることが認められ、右認定事実を併せて考えると、前記〈証拠〉をもってしてもいまだ右売買が被告会社から原告会社に対する売掛であることを認定せしむるに充分であるとはいい難く、他に右事実を認めるに足りる証拠はない。

したがって以上の事実によれば、被告は原告に対し前記売買代金残金三万一六〇円およびこれに対する各弁済期の後日にして本件訴状送達の翌日であることが記録上明らかな昭和四〇年九月六日から右完済まで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金を支払わなければならない。

二、そこで昭和三八年一一月一八日付餌用まいまいの売買について判断する。

〈証拠〉を綜合すると次の事実が認められる。

(一)、被告は昭和三七年五月設立された株式会社で、高知市中央卸売市場塩干魚部に属する卸売人であり、加工水産物ならびに海そうその加工品をその取扱品目としているところ、昭和三八年五月末ころから原告会社と継続的な取引を始め、原告会社は、被告会社からその取扱う委託販売品を買受けるかたわら、相互に水産物加工品の売買を代金は取引の翌月末日までに送金して支払うとの約定でおこない、被告会社では専ら訴外畠山淳美が原告会社との取引の衝にあたり、また取引は全て電話でなされた。

(二)、原告は畠山淳美がその妻名義で営業する畠山商店からも昭和三七年四月頃から継続的に水産物加工品を買受け、右取引も畠山淳美が電話で注文を受けていたが、その都度あるいは出荷伝票によって畠山商店との取引であることが示され、被告会社との取引とは明らかに区別されていた。

(三)  前記のように原告会社との間の取引は畠山淳美が担当の係員として、専らその衝にあたっていたが、被告会社内部での営業の責任者は最終的には専務取締役である浜田重利であり、委託販売については取引額によって畠山ら係員の権限が制限されることはなかったが、買取り商品の売買については一〇万円を超える取引について右浜田の決済を必要とすることになっていた。原告はもとより右金額による権限の制限が加えられていることを知らなかった。

(四)、前記のように被告会社は高知市中央卸売市場の塩干魚部に属する卸売人であるところ、中央卸売市場法(大正一二年法律第三二号)、高知市中央卸売市場業務条例(昭和五年条例第一号)、同施行細則(昭和二四年規則第九号)によれば、塩干魚部に属する卸売人は加工水産物ならびに海そうおよびその加工品以外は取扱うことができず、その販売方法は委託販売を原則とし、買入れの方法によるときは市長の許可を得る必要があり、これらの規定に違反した場合には過怠金、認可の取消などの制裁が科せられる。

本件餌用まいまいは小型のえびを塩漬にしたもので漁をするときの餌として使用されるものであるが、被告会社では食用品でないこの種のものは従来から一度もとり扱ったことはなく、また高知市中央卸売市場塩干魚部の取扱品目にも属さない。

(五)、昭和三八年一一月頃、原告会社は高知方面で餌用まいまいの需要があることを知って、取引の電話があったついでに畠山に需要があれば出荷できる旨を伝えていたところ、畠山は訴外有限会社山崎海産にその話をし、同訴外会社からそのあっせんを依頼された。そこで畠山は数日後の一一月一八日頃、原告会社に電話で、本件餌用まいまい、七〇〇罐、代金九二万五、〇〇〇円の申込をし、原告会社はこれを承諾して直ちに生産者から買付け、その直後さらに畠山からこれを引取ることができるようになるまで原告会社の方で冷蔵、保管してもらいたい旨の依頼があったので、これを冷蔵業者に保管せしめ、昭和三八年一二月一日から昭和四〇年七月二八日までの保管料として合計六一万八四四円を支払った。畠山は右餌用まいまいの注文あるいは冷蔵、保管の依頼にあたって、被告会社が買受けるわけではないこと、あるいは買受けるのは訴外山崎海産であり、そのあっせんをするにとゞまることなどの事情は一切これを告げなかったため、原告会社はいつものとおり被告会社の注文であると考えて処理し、請求書も同月二三日、被告会社宛て発送した。なお原告会社は餌用まいまいが高知市中央卸売市場塩干魚部に属する卸売人の取扱品目に属さず、被告会社が卸売人としては取扱えない商品であることを知らずに本件取引をしたものである。

右認定とくいちがう〈証拠〉は直ちに信用することができず、他に右認定を覆えすに足りる証拠はない。

そして右認定の事情のもとにおいては、畠山がなした本件餌用まいまい買入申込の意思表示はその内心の意思にかかわらず、表示行為としては、営業担当者がした原、被告間の継続的取引の一環としてなされたものというべく、また右売買は商法第四三条にいわゆる或種類または特定の事項の委任を受けた使用人の権限に属する「営業に関する特定の行為」に該当すると解さざるを得ない。なるほど前記認定のように本件餌用まいまいの売買は畠山が被告会社の利益のためにこれをなしたものではなく、訴外山崎海産の便宜をはかる意図のもとにおこなった取引であるとともに被告会社が属する高知市中央卸売市場塩干魚部の卸売取扱品目にあたらず、したがって被告会社が卸売人としては取引できない商品であり原、被告間でも従来から取引されたことはなく、また原告会社から買付けていたするめなどの水産加工品とは、その種類、価額の点で多少相違する。しかしながら、右法条にいう使用人の権限に属する事項の範囲は、その者が営業主の利益のためになしたか、または自己もしくは第三者の利益のためになしたかにより主観的具体的に判定すべきでなく当該行為自体につき、それがその営業のため必要な行為か否かを客観的抽象的に観察して決すべきであると考えられるところ、本件餌用まいまいは小型えびを塩漬にしたものであること、取引の数量、金額が平素の取引に比べて多いといってもその額がいまだ社会通念上異常とはいいきれないこと、高知市中央卸売市場業務条例第一条には、「高知市中央卸売市場(以下市場という。)においては、魚類そ菜果実並びにそれらの加工品の卸売をする。」第二条には、「取扱品目の部及び各部に属する物品は、次のとおりとする。鮮魚部-生鮮水産物、塩干魚部-加工水産物並びに海そう及びその加工品、青果部-そ菜、果実及びきのこ並びにそれらの加工品、取扱品目の部に疑があるときは、市長が、これを定める。」と規定されているが、右規定から直ちに本件餌用まいまいが塩干魚部の取扱品目に属さないとはいいきれないことなど前記認定のような事実に徴し右餌用まいまいの買入れは被告会社の営業に関する行為であると解するのが相当である。そして畠山が原、被告間の売買取引につき専らその衝に当るべく被告会社から委任され、その業務に従事していたことは前記認定のとおりであるから、被告は原告に対し、本件餌用まいまい売買契約上の責に任じなければならない。

三、次に〈証拠〉を綜合すると、原告は被告に対し右餌用まいまいの代金ならびに立替保管料の支払と引取り方をくりかえして督促したが、被告はこれに対し、売買の当事者ではなく責任がない旨を主張してこれに応じないので、原告はやむをえず昭和四〇年六月二九日付内容証明郵便をもって七月一〇日までに商品を引取り、代金、保管料を支払うべきこと、右期間内に応じない場合には自助売却すべきことを通知し、右内容証明郵便はそのころ被告に到達したこと、同年七月二八日、原告は執行吏手数料三、一三六円を支払って自助売却し、その競売代金二一万円を代金の一部に充当したことが認められ、右認定を動かすに足りる証拠はない。

以上の事実によれば被告は右餌用まいまい代金残金七一万五、〇〇〇円および、保管料六一万八四四円ならびに自助売却手数料三、一三六円を原告に支払う義務がある。そして右代金残金については弁済期日の翌日たる昭和三九年一月一日から、その余については訴状送達の翌日たることが記録上明らかな昭和四〇年九月六日から各完済に至るまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金を附加しなければならない。

四、よって原告の本訴請求はその余について判断するまでもなく全て理由があるのでこれを認容する。〈以下省略〉。

(裁判官 東条敬)

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